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そして、
「彼が、どういうつもりで、豊田さんをそれだけ手伝うのかは分からない。
だけど、ああして彼女とだって切れていない以上、
彼の豊田さんへの気持ちは、恋愛とは違うのかもしれないよね。
それに、彼の事情っていうのも、
彼が豊田さんを好きになったからっていうのとは違うんじゃないかな?」
ギクッと音がしそうなほど、心臓が大きく跳ねた。
だがその衝撃で、言葉も声も、そして体までもが凍り付く。
そんな動けなくなった私に、福澤が、ゆっくりと言った。
「豊田さんがね、彼を好きなのは、なんとなく分かってる。
でも俺も、決して焦っているわけじゃない。
だから、今すぐじゃなくていい。いくらでも、待つよ。
だけど、もしも彼と気持ちが通じ合わないのなら、
少しでいいから、俺との事を考えて欲しい」
そして福澤は、少しだけ言葉を切ってから
「送っていこうか?」と小さく尋ねてきた。
だが私は、言葉が戻らないままに、かぶりを振り返した。
「分かった。じゃあ、気を付けて。また、明日」
そう言った福澤に、私は、おずおずと視線を戻す。
その視界の中で、彼は小さく手を挙げると踵を返し、
ゆっくりと駅へと向かって行った。
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