ひろいもの無用

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「若旦那ったらまたこんなに濡れて。黴(か)びてしまったらどうするの」 「伽羅子、そこはね、風邪をひいたらどうするんだって、心配をするんですよ。その方が、ずっと人間らしい」  慈雨が訂正をする。伽羅子はさゆやの頭をわしわしと拭きながら、 「風邪ひくの、若旦那?」 「ひかないよ。俺は、どちらかと云うと、黴(かび)生えるんだ。伽羅子、おにぎりは?」 「たあんと、作ってあるわよ。若旦那の云うとおりに。梅干しでしょ、昆布(こぶ)でしょ、野沢菜でしょ、鮭でしょ、あと……」 「ツナマヨ」  間髪入れずにさゆやは答える。「そう、ツナマヨ」と、伽羅子は頷いて、さゆやの頭から手拭いを外した。 「食べる、若旦那? 焙じ茶入れましょうか?」  さゆやは式台に上がり、濡れた下駄を揃えて置いた。 「うん、食べる。食べて、見世を開けなくちゃ。その前に、慈雨、」 「はい、若旦那」  慈雨がかしこまる。 「着替えさせて。それから、髪も」 「全く、うちの若旦那は」  やれやれと、慈雨は肩をすくめ、両手を上げる。さゆやは眉ひとつ動かさず、 「それはあんまり人間の振り過ぎるよ、慈雨。御隠居はそんなことしないだろう」 「……キヲツケマス」  くく、と、伽羅子が笑うのを、慈雨は睨んだ。
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