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「ひゃ、ひゃくまん! そ、そんな報酬用意できませんよ!」
今回の映画製作費は、映画製作するうえで史上まれにみる低予算で制作される。題字だけに、100万円も避ける余裕はない。
先生は、それが分かっているのかいないのか、背中を向けたまま、縁側に座って再び煙草に火をつけた。
「なら、俺はこの仕事を引き受けん」
「あ、あの! 先ほどもお話ししましたが、今回……かなりの低予算でして……その……100万円はちょっと……あ、でも! 必ず謝礼は払いますので、20万! 20万くらいは謝礼ができるかと」
「……」
先生は、タバコを燻らせたまま黙っていた。
そんな先生の背中を、私は座布団の上から動けないままじっと見つめた。
その背中からは、拒否以外の何の感情も見られない。
嫌な沈黙が続く中、先生は煙草の火を消して、ぽつりと言った。
「帰れ」
「えっ……」
私が、言葉を探していると、先生はふいに立ち上がってこちらを振り返った。
その顔は、逆光で良く見えない。
「俺は、100万以外でこの仕事を受けない。受ける気はない」
「あの……そこをなんとか! 謝礼は払いますので。お願いできないかと……」
「わからないか? ……俺は、この仕事を受ける気はないと言っているんだ」
「!」
「……帰りな。ここまで来たのに悪かったな」
そう言って、先生は私を一人残して、リビングを出ていった。
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