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家の中は、今、はやりの古民家カフェのような雰囲気になっていた。中は少し薄暗く、柱時計の振り子の音だけが響いている。
廊下のところどころに、先生の作品なのか、なんと書かれているのか分からない筆文字で、大小さまざまな作品が額縁に入れられて飾られていた。
と、まわりを見回しながら、恐る恐る奥に進むと、一つだけ扉が開いている部屋があった。
開いている扉をのぞくと、そこはリビングのようであった。
足の低いテーブルがあり、壁際の部屋の棚には多くの酒が置かれている。有名な銘柄から見たことない様なものまで、全てが日本酒のようだった。
部屋の中は、廊下とは違い、大きな窓が付いて、太陽の光が十分に注がれて暖かい光に包まれている。
窓際は、縁側になっているようで、外に見える庭は、京都の町屋にあるような日本庭園のように、綺麗に整えられていた。
街の大分離れた郊外にあるせいか、外から車や人の声が聞こえる事もなく、自然の音だけが聞こえる、なんとも落ち着く空間であった。
そんな、部屋の中には誰もいなかった。
そのため、私はふたたび部屋の入口付近でポツンと立ちつくした。
「なにしてる」
「!?」
「早く座れ」
突然、横から声を掛けられ、私は肩を揺らした。
右に顔を向けると、そこには眉間に皺をよせた先生が、怪訝な顔で私を見ていた。その手にはお盆の上に乗せたお茶と茶菓子を持っている。
先生の後ろに視線を向ければ、そこにはキッチンがあるようで、どうやらそこから出てきた様であった。
そんな、無駄に先生を観察していて動かないでいた私を見て、先生は小さくため息をついて、再び不機嫌そうな声で言った。
「座らないのか? 話がないなら、さっさと帰ってほしいんだが」
「えっ、あ、す、すみません! 今、座ります!」
これ以上、動かないでいると追い出されかねない不機嫌さに、私は慌ててテーブルの座布団の上に座った。
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