1 依頼

4/10
前へ
/10ページ
次へ
マナー的には、かなり不作法であっただろう私の姿にも関わらず、先生は何も言わずに、私の前にお茶とお菓子を置いてから、目の前に座った。 先生は、座ると側に置いてあった灰皿とライターを引き寄せ、緑色のマルボロの箱を手に取り、煙草を一本取りだし、ちらりと私を見てきた。 「吸っていいか?」 「あっ……どうぞ」 私がそういうと、先生は、ライターで煙草に火をつけると、深く煙を吸い口から煙を吐きだし、燻らせた。先生の周りに、半透明の煙がゆらゆらと揺れる。 私は、そんな先生の姿を、正座をして、改めてじっと見つめていた。 大きな長い指で煙草をはさみ、気だるげに煙草を吸う。ただ、それだけなのに妙に絵になる美男子だ。 そんな、静かな時間がしばらく続いた後、先生は灰皿に煙草の灰を落してから、私を見た。 「で、話って?」 「あっ、は、はい……あの」 「……お茶どうぞ」 「あっ、はい。ありがとうございます……」 上手く言葉を紡げない私を見かねてか、お茶を進められて、私は素直に目の前のお茶を一口口に含んだ。 熱すぎない温度と煎茶の良い香りに、お茶を喉に流し込んだ時には、大分落ち着きを取り戻していた。 そんな、私をじっと見ていた先生は、2本目の煙草に火をつけてから言った。 「で? 話って?」 「あっ、はい……弊社で、現在ある映画の撮影をしておりまして……その映画のタイトルを宮戸先生に付けてほしいんです」 「タイトルを付ける?」 「はい、先生が考えたタイトルを、先生の書で書いてほしいんです」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加