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そう言った経緯を、私は目の前にいる先生に話して聞かせた。
先生は話を聞きながら、3本目になる煙草に火をつけて、ゆっくり吸い込んで、煙を燻らせながら聞いていた。
「と、いう事なんですけども……」
「……」
私が話し終わっても、先生はしばらく煙草を吸うばかりで何の反応も見せなかった。
その先生の表情は、よく分からなかった。終始、機嫌が悪そうではあるが、それは初めからなので、普段からこういった顔だったら判断がつかない。
ただ、相変わらず、あまり乗る気ではないのは伝わってきていた。
と、沈黙の中、不意に先生が口を開いた。
「話は分かった……ところで、俺をどうやって見つけたんだ? 昨日の電話では紹介を受けてと言っていたが」
「あ、ああ、はい。学生時代の友人からで……天来さんから教えて頂きました……ご存知ですか?」
「藍子からか……あいつ、面倒な事を」
最後の方は小声で言っていたが、小さな舌打ちと共にしっかりと私の耳にも届いていた。
すると、先生は、大きなため息をついた。
「藍子から、俺の事をどういう風に聞いたんだ?」
「え? えーっと……それなりに有名な書道家の人で……以前は、テレビにも出演していたことがあるからと……」
「そうか……で? どうして、俺にしようと思ったんだ」
先生は、私の顔を無表情でじっと見つめて言ってきた。
その視線に、私は妙な緊張を覚えた。まるで、私を試しているかのようなその瞳に、私はごくりと唾を飲み込み、先生の視線を避けるように俯いた。
そして、つい本当の事を言ってしまったのだ。
「は、はい……社員達に先生の名前を上げたところ、名前がある程度、世間に知れ渡っている先生なのだから、映画の宣伝効果にもなるんじゃないかと言う話になりまして」
「ほう……ま、確かに昔世間の話題にはなっていたがな……で? 俺の作品は見たのか?」
「え?」
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