1 依頼

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苛立ちを孕んだ声に、私は思わず顔を上げ、そして、冷たい瞳とかち合った。 私は、思わず唾を飲み込み、言葉が出てこなかった。 「……」 「俺の作品を見て、決めた訳じゃないんだな」 「えっ……あの、その……もちろん、私は先生の作品は見ました……」 「……私は……か」    先生は、そう呟くと再び黙り込み、私をじっと見てきた。  私は、先生の視線に耐えきれず、再び顔を伏せた。  先生の視線は、来てからずっと感じていた面倒だと言う気だるげなものではなく、どちらかと言うと侮蔑を含んだような冷たい視線であった。  また、しばらく沈黙が場を包んだ。  そして、ジュっという灰皿に煙草を消すような音が聞こえ、そして先生が小さなしっかりとした声で言った。 「100万だ」 「え?」 私は、何を言われたか分からず顔を上げると、先生は手に持った煙草を灰皿に押し付けてから、すっと立ち上がった。 私が、動けずにそのまま見上げていると、先生は視線を合わせる事もなく、縁側に向かいながら言った。 「タイトル考察料と、代筆料、それに伴う時間の拘束料しめて、100万を用意しろ」 「は?」   私は、思わず呆然と先生の背中を見つめた。そして、徐々に先生の言った事実を理解し、目を見開いた。
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