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そして再び拳を握った。 それまでよりも強く、固く、胸のなかでわだかまる感情のすべてこめて握りしめる。 階段を降りきった犬養は大股で歩き出した。 エントランスを最短距離で突っ切って、受付のまえを横切る。 カウンターのなかで業務についていた牛尾和が気づいて顔をあげた。足早に通り過ぎて行った犬養の背を目を丸くして見送る。進路のさきにはソファでうなだれている井戸川がいる。 寝起きのような鈍い動きで井戸川が顔をあげた。 あと数歩のところまで迫る犬養に気付くとその顔に衝撃が広がる。 弾かれたように立ち上がろうとした井戸川のシャツを、距離を詰めた犬養が乱暴に掴み取った。 突きだした額を、相手の額に叩きつける。 固い物がぶつかりあう重く鈍い音がエントランスに響いた。行きかう人が足を止めて目をやる。足音が止んで騒然とした静けさが広がった。受付カウンターのなかで和が立ち上がる。 勢いのついた頭突きを食らった井戸川はソファを巻き込んで後ろに倒れていった。ソファとともに床に投げ出される。
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