76人が本棚に入れています
本棚に追加
襟元を正し、整えたネクタイを三つの星が並んだゴールドのネクタイピンで留め直した。
「俺だったら速攻でだれかに頼るだろうぜ。便利屋だったり、知り合いだったり、お前だったりにな」
投げ込まれたものを見つめるような間のあと、井戸川は掠れる声で言う。
「……ガキのころからテメェの面倒に巻き込まれてきたけど、あれはもしかして頼って来てたってことだったんじゃねーだろうな」
「それ以外のなんだと思ってたんだよ」
「マジかよ」
強張った表情のまま、ぎこちなく口元がほころんだ。肩から力が抜けて行く。
井戸川をがんじがらめにしていた緊張がほろりと緩んでいった。
そして息をつくようにつぶやいた。
「……助けてくれ、犬養」
「まかせとけ」
犬養はソファを引き起こしながら即答した。
その口元には笑みが浮かんでいる。幼馴染の存在が彼の瞳に特別な火を燃え上がらせる。職務への矜持、まだ見ぬ敵への怒り、さまざまな感情を内包し、その目は鋭く輝いていた。
受付カウンターに肘をつき、様子を見守っていた牛尾がやわらかく息をついた。
和もカウンター内の席に落ち着いた。いつでも飛び出せるように待機していたが、業務に戻る。
申谷は牛尾からの目配せを受け、ふたりのもとへと向かった。
「話はまとまりそうか」
「待たせたな。方向性は決まったぜ」
最初のコメントを投稿しよう!