15

19/24
前へ
/338ページ
次へ
犬養は口角を持ち上げた。 ひざをついたままの井戸川は、そばにやってきた申谷を見上げて身体をこわばらせている。 「森山の居場所を知っているか」 「……あぁ」 苦い表情で頷く。直視するのを恐れるように視線を泳がせつつ、相手を見上げる。 「あんたを連れて来いって命じられてる。そうしたら仲間たちを解放してもらえる」 「話が早い。連れて行け」 申谷はスーツの袖口を正しながら、エントランスの出入り口へと視線を向けた。 「えっ、あ。まさか、いまからっ?」 目を丸くした井戸川は狼狽えるように犬養のほうを見た。 「あたりまえだろ。あっちもこっちもどっちも会いたいってなってんだから」 「俺はべつに、どうすりゃいいか聞きにきただけで……ってか犬養、てめぇも行くのかよ」 「オレが行かなきゃだれがナビゲーションするんだよ」 当然のように犬養は言い切った。迷いも躊躇もない。進むべき道はそこしかないと言わんばかりの態度だった。 面食らう井戸川へ、申谷が言葉を投げかける。 「だが、約束が丁寧に守られるとは限らない」 淡々とした口調。その眼差しは落ち着き払っていた。 棘も鋭さもない言葉に、井戸川の表情は痛みを堪えるように歪んでいく。
/338ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加