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真正面から向かい合った申谷は、犬養へと視線を向けた。
「私が森山とする話は一分二分では済まない。むしろ話を終えたあとのほうが時間を要するだろう。そのあいだに出来ることがあるはずだ」
「なるほど、まかせろ。オレとコイツは連中の救出にあたる」
犬養は口角を吊り上げてニッとした笑みを浮かべる。
井戸川が充血した目を見開いた。
「それが最善だろう」
申谷が頷いた。
「あんたらの話し合いの場に俺がいる必要はないもんな」
「落ち着いて話がしたいからな」
「にぎやかしが欲しいときは呼んでくれ」
鼻で笑い飛ばすと、申谷はコートと装備を取りに向かった。足早に階段を昇っていく姿を見送りながら、犬養は受付カウンターで様子を見守っていた牛尾所長と打ち合わせをはじめた。
井戸川はソファに向かい合うように立ち尽くしていた。
心臓の鼓動が、頭のてっぺんからつま先まで鳴り響いている。希望を見いだせた興奮なのか、これから起こりうる波乱への恐怖なのかはわからない。何度も大きく息を吸い込んでは吐き出した。
それでもまだ、胸の底に重たく沈んでいるのがあった。
「おい大丈夫かよ」
すぐとなりに犬養の姿があった。
「ただでさえシケた面が等倍でシケシケだぜ。いよいよ捕まるぞ」
「てめぇはこんなときでも減らず口だな」
「よろしくどーぞ」
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