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犬養はスマホを操作しながら、
「ほかにも気にかかることがあんのか」
視線を手元に落としたまま尋ねる。
井戸川の胸に圧し掛かるものが重みを増した。ジーンズの腰に挟んで隠していた、凶弾を吐き出す塊の存在を思い出させる。重量と冷たさが肌に焦げ付いて来るようだった。
「……お前を殺して来いって言われた」
「なんだそれ、ウケる」
「ふふっ」と犬養は笑った。スマホをスラックスのポケットにしまい、顔をあげる。
「オレが奴に言ってやるよ。やれるもんなら、テメェがやってみろよって」
口の端を持ち上げてニタッと目を細めた。瞳には生き生きとした光が宿っている。
冗談ではなく、気休めでもない。心の底からの言葉はまっすぐで、強靭だった。
井戸川は肩の力を抜いて「ははは」と笑い声をあげた。疲労のにじんだ笑いだったが、張りつめていたものに穴があき、そこから空気が漏れ出していくようだった。
「怖いもん無いのかてめぇは」
胸にのしかかるものがいくらか、軽くなる。
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