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甲区と乙区を隔てるように幅の広い川が横たわっている。
川の中州には輝きと賑わいを凝縮した繁華街があった。いまはその抜け殻たちが、互いにもたれかかるようにして沈黙している。外殻のみとなった街をとり囲む川の水面からは、自転車の車輪が突きだしゴミや木の枝が引っかかっていた。
中州へむかう橋は封鎖されている。四車線の車道は錆びの浮いたフェンスで遮られ、さらにトタン板や土嚢が重ねて置かれていた。
投げやりにも思える補強のあいだには、砂埃、空き缶、紙ごみなどが設置された月日のぶんだけ溜まっていた。
フェンスを見上げて犬養は言う。
「中州の街は特に権利やなんやにヤバイ組織ばっか絡んでる。バリケードなんかなくても悪ガキだって寄りつかねぇよ」
「どっかのだれかが海に沈められたとか、そんなウワサ一生分聞いた」
井戸川はトタン板をがたがたと退かせた。隠されていたフェンスの破れ目を潜り抜ける。
青空の下に廃墟となった街がひろがっていた。
橋から続く大通りを軸にして細い道が枝分かれして街を作り上げている。中層の雑居ビルがひしめくように建ち並んでいた。
それらの建物すべてが光を発せば、夜の暗がりすら消し飛ばすようなまばゆさだっただろう。どの通りを歩いても様々な店が目に入る。人々が織りなすにぎわいが街を彩り、狭い通りいっぱいにネオンと活気が満ち満ちていた、そんな光景が浮かんでくるようだった。
いまの中州には、犬養たちのほかに、人の姿はない。
ことごとく割れた窓ガラス。劣化した看板はヒビ割れて、かつての店名は雨風に洗われ消えている。
雑居ビルは灰色の死体のように佇むだけで、崩れ落ちた外壁が道を塞いでいた。修繕の気配も人の手がはいった様子もない。
中州を貫く無人の大通りを風が吹き抜ける。
アスファルトの隙間からのびる雑草が青い空を見上げてそよいでいた。
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