16

4/20
前へ
/338ページ
次へ
井戸川は通路の先、ゆるくカーブを描いている北端を指さした。 「この突き当りは映画館に繋がってる」 暗闇に慣れた目でも行く先になにがあるのか判然としない。 ライトの光も届かない暗闇がいっぱいに充満している。 「森山さんはそこにいる」 犬養はとなりに立つ申谷を見上げた。 彼は道の先をまっすぐに見つめていた。天井や床の境すらわからない暗がりを捉えている。 闇を抜けたさきに追い求めているものがある。 申谷の足取りは落ち着いていた。だが、その鳶色の瞳の奥には閃光のような熱情が、火花を散らすように煌めいている。 遠くから獣の唸り声が聞こえてきた。 申谷と犬養は素早く行く手を睨んだ。真っ暗な道の先へ意識を向ける。 井戸川は戸惑いながら道を指した腕を下ろした。 「な、なんだ?」 分厚い緞帳に包まれたような低い唸りが通路いっぱいに反響する。 白い光が壁や石畳や天井を這う。巣食った影を追いやっていく。ゆるく右にカーブした通路のさきからヘッドライトのまばゆい光が溢れだした。 暗闇の静寂を蹴散らしたのは荒ぶる獣の咆哮のようなエンジン音。 「……山下か?」 向かってくるライトに顔をしかめながら井戸川が呟いた。 闇を引き連れた黒い車体にまたがるのは、フルフェイスヘルメットのライダー。
/338ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加