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井戸川は通路の先、ゆるくカーブを描いている北端を指さした。
「この突き当りは映画館に繋がってる」
暗闇に慣れた目でも行く先になにがあるのか判然としない。
ライトの光も届かない暗闇がいっぱいに充満している。
「森山さんはそこにいる」
犬養はとなりに立つ申谷を見上げた。
彼は道の先をまっすぐに見つめていた。天井や床の境すらわからない暗がりを捉えている。
闇を抜けたさきに追い求めているものがある。
申谷の足取りは落ち着いていた。だが、その鳶色の瞳の奥には閃光のような熱情が、火花を散らすように煌めいている。
遠くから獣の唸り声が聞こえてきた。
申谷と犬養は素早く行く手を睨んだ。真っ暗な道の先へ意識を向ける。
井戸川は戸惑いながら道を指した腕を下ろした。
「な、なんだ?」
分厚い緞帳に包まれたような低い唸りが通路いっぱいに反響する。
白い光が壁や石畳や天井を這う。巣食った影を追いやっていく。ゆるく右にカーブした通路のさきからヘッドライトのまばゆい光が溢れだした。
暗闇の静寂を蹴散らしたのは荒ぶる獣の咆哮のようなエンジン音。
「……山下か?」
向かってくるライトに顔をしかめながら井戸川が呟いた。
闇を引き連れた黒い車体にまたがるのは、フルフェイスヘルメットのライダー。
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