朝、起きると手が痛い①

2/2
前へ
/2ページ
次へ
都会とは騒がしいところだと思っていた。うちの会社の男子寮は神楽坂という都心の観光地にある。ここは都会の中心なのに妙に静かだ。夜は遠くの外堀の電車の走る音や、なぜか庭に自生している竹の葉の音、自分の実家よりも田舎っぽい。 「この道は少し遠回りだが一番覚えやすい。一人で出社する時はこの道で行くのがいいだろ。まぁ、あのでかい要塞みたいなビルを目指せば飯田橋駅には着くんで、その辺りは任せる。」 先輩社員で同じ寮に住んでいる相馬先輩は最初に案内してくれた時に言っていた。僕は遠回り派。地蔵坂という少し急な坂を下ると神楽坂のメイン通りにぶつかる。メイン通りには犬の散歩をしている人やごみの収集車ぐらいであとはカラスしかいない。 朱色の毘沙門天と呼ばれる神社の前を通り過ぎて神楽坂を下って行く。神楽坂下につくと大きな道路にぶつかる。そこには外堀沿いの桜が見えてくる。満開の時期を過ぎ、桜色とは違う反対色の緑色の若葉と言えば良いのか葉っぱが見える。昨日の雨のせいで散った桜の花びらが水に流されたのだろう排水溝のあたりに積もっている。 この桜が咲く頃にこの地に来たはずで、その時も見ていたはずなのに、最近になって桜の存在に気づいた。少し、この場所に慣れて来たのかもしれない。 信号を渡り、坂を登ると飯田橋駅がある。この飯田橋駅は橋の上にある。相馬先輩が言うには数年後には駅舎を立て直すとか、「おれは見ることはないだろうけどね」っと続けた言葉からまだ1ヶ月ほどの付き合いではあるが、この人からそれまでには追いつきたいと思った。 黄色いラインの電車に乗り、谷の中にあるような御茶ノ水という変わった名前の駅でオレンジのラインの電車に乗り換える。東京駅に着くと長いエスカレターを降りる。ディズニーランドに行く電車に乗り換えるのだが、この電車のホームが異様に遠い。 相馬先輩曰く、「通勤の最大の難関はこのリア充ディズニー客を殴りたくなる衝動をいかに抑えるかだ」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加