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道路は雅びな貴族の乗り物で混んでいるが、空路なら直接目的地へと向かえる。
翡翠は混んでいる地上の道を避け真っ直ぐ目的地に進路を執った。
空を行く彼の下には都人の乗り物がゆったりと動いている。
「わざわざ鈍い牛に引かせた牛車に乗るのが分からん」
翡翠にとって牛車は、遅く揺れの酷い乗り物と言う認識だ。
目的地に急いで出向かなくてはいけない翡翠達にとって、牛車は不向きな乗り物だ。
だが、貴族には欠かせない乗り物で、往来でのろのろと歩む牛車がそこかしこに見える。
都には悪鬼除けの印を描くように桜が植えられている。その桜は上から見ると満開で綺麗な桜色を発していた。翡翠の先達の陰陽師が完成させた桜結界だ。その桜で異変が起きた。
万全の体制で作り上げた平安京は物の怪対策も抜かりなく設計されている。
妖は、これらの結界により入り込めず物の怪退治は平安京の外で行うものが通例だ。
翡翠は、その結界の綻びが無いか目視で確かめていたその時、街の左側の桜が揺らいだ気がした。
式に念を送り目的地を変更すると、探索用の人型を取り出し空中に放った。
人型から映像が送られ、空間が揺らいだ付近の桜が墨染めの桜へと変貌し辺りに黒い霞が漂っているのが見えた。
「何故、この様な霊障に気づかぬ」
己の未熟さを感じ翡翠は唇を噛み締め式を急がせた。
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