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「典保殿、そこは危険だ近寄ると命が危ない」
翡翠が霊障に遮られ一歩も近付けない中、典保は霊障を感じないのか一目散に近寄り女性の生死を確かめる。
「…息をしていない。しかし寝ている様に見える。翡翠殿、何故じっと立ったままなのですか」
典保が立ったまま微動だにしない翡翠を手招く。
「くっ、これだから霊を感じない鈍感な輩は…」
典保の周りを、悪霊となった霊達が囲み生気を奪おうとするのを見て翡翠は式符を構え印を切った。
「悪霊駆逐…急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)」
翡翠の言葉と共に式符が四方に散らばり光った。
式符の光が雷の如く悪霊を貫く。
雷光で霊障の隙を突き、翡翠は典保の元へ走り寄り声を掛けた。
「典保殿、ご無事か」
「平気です。しかし…この姫は…」
典保の言葉に翡翠は横たわる姫を見た。
着物にも呪文が細く書かれ、陰陽師である翡翠にはその女性が術の贄となった事を一瞬で理解した。
そしてその手には、一対の貝合わせが握られていた。
「くっ。亜子姫…まさかとは思っていたが…」
翡翠は、握り締められた貝を見て下唇を噛んだ。
「翡翠殿は、この姫と面識があったのですね」
そう話す典保の声には哀れみが込められていた。
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