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貝合わせを、愛おしそうに見つめ翡翠は呟いた。 「自らの力を花弁に込めていたのでしょう」 翡翠の手の中で桜の花弁が緩やかに消えていく。 「では…あの姫は既に…」 典保はそう呟くと桜の木を見上げた。 「翡翠殿。見てください桜が綺麗ですよ」 「典保殿、何を…っ」 術の中心となった桜は本来の色を取り戻し淡紅色に戻っていた。 桜の花を見上げ翡翠は、亜子姫と出会った時の事を思い出した。 まだ二人とも幼く、姫の素性を知らなかった幼い日を。 はらはらと桜の花弁が散る中、翡翠は亜子姫が贄にされようとも人々を守ろうとした、その思いを桜から感じた。 「貴女らしい…亜子姫、貴女は運命を知りながら逃げずに戦った。だが、私は貴女に生きていて欲しかった」 桜をじっと見る翡翠に、保典が話し掛けた。 「私、思ったのですが…この事件の黒幕は姫では無いと…」 「まだ推測ですが、姫は贄になる為に生まれてきたのです。黒幕は別にいます。それは…」 その後の言葉を翡翠は飲み込んだ。 悔しそうな表情の翡翠に、典保が力強く語り掛けた。 「では、退治は是非一緒に…ちゃんと連絡してください。忘れずに」 典保は、翡翠の目を見るとにっこり微笑んだ。 「…善処…します」 典保が身分が上の為、反論出来ない翡翠は頬を引き攣らせながら典保に頭を下げた。 「…なかなか骨があるな」 翡翠はそう呟くと桜の木をまた見上げた。 あの時、翡翠を誘った花弁は亜子姫だったのか今となっては分からないが、舞い散る桜の花弁が姫の涙の様に思えた。 「さて、どうやって黒幕をあぶり出しましょうか」 楽しそうに話す典保に翡翠は、諦めに似た溜息を吐き渋々頷く。 「…ああ、全員捕まえてやる」 「では、また都まで空の旅を楽しみましょう。ああ、楽しみですね」 うきうきとした典保に、翡翠はまた溜息を吐いたのだった。 ー完ー
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