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昨夜からの雪が止み、冷え込んだ朝。 まだ夜が白み始めた頃。 朝の支度の途中に、亜子は神木からの御告げを受けた。 神木に呼ばれ庭に出ると、白銀の世界に薄紅の桜の花が満開になっていた。 「…時が来たのですね」 亜子は狂い咲きの満開の花を見て囁く。 結界に使われる桜の木。 その中心に使われる予定だった桜の木は、今は亜子の住む館とは、お世辞にも呼べない廃屋に近い建物の庭にあった。 一応、一族が手入れはしているが、没落した一族に潤沢な資金があるわけでもなく、日々の暮らしにも窮困していた。 そんな中、手を差し伸べてくれる存在が亜子にはあった。 御告げを受け、亜子はその人に文を書くべく文机に向かった。 墨を擦りながら亜子の目が自然と潤む。 「…どうか、どうか、この文が届きますように」 震える手に気付き、亜子は深呼吸すると、筆に墨を含ませ、すらすらと筆を走らせた。 書き終えると、亜子は庭に出向き神木の花が咲いている枝に手を伸ばした。 「…加護を与えてください。無事に届くように…」 祈りながら一輪の花を折る。 ぽわっと桜の木が光るのを目を閉じていた亜子は気づかなかった。 その花を手紙に添えると、亜子は母に仕えていた朝霧を呼んだ。 朝霧は、母の乳母の娘で、母の乳姉妹だ。 母が亡くなり、父方の一族に無理矢理連れてこられ時に、側仕えとして付いてきてくれた亜子にとっての唯一の味方だ。
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