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亜子に呼ばれすぐさま朝霧が部屋に入ってくる。
「姫様、御用でしょうか」
「…朝霧、直ぐに支度をして父の手の者に見つからないよう、此処を出立するのです。これを持って…そして平安京の桜館に届けてください」
亜子が生まれた時から知っている朝霧は、普段と違う亜子の様子にすぐに気付いた。
「姫様…もしや…」
「ええ、前から見ていた予知夢が…」
「分かりました。この命に代えて届けます」
「朝霧、頼みます」
亜子は朝霧の手を、ギュッと握ると目を見つめた。
「…姫様も…」
朝霧も亜子を見つめ返すと、そっと手を離し静かに部屋を出て行った。
これが今生の別れだと、お互いに知りながらもあっさりとした退出だった。
亜子の表情が切羽詰まっているのを見た朝霧の決断だった。
我が子のように愛おしく育ててきた亜子を、あの一族の中に置いてくるのは身を切られる辛さだったが、前々からの亜子との約束だった。
御告げを受け、その時が来たら都に、平安京の桜館に知らせに行く事を、朝霧は亜子から頼まれていた。
平安京へ通じる道は、夜には魑魅魍魎が彷徨う。
お告げが夜明け直後なのが、まだあの者達に対抗出来る兆しだと亜子は感じた。
亜子は、懐から人形(ヒトガタ)の紙を出すとふぅっと息を吹きかける。
「朝霧を守りなさい」
そう命じると、亜子は人形を飛ばした。
そして亜子に出来る最後の務めの準備を始めた。
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