4/6
前へ
/19ページ
次へ
亜子に呼ばれすぐさま朝霧が部屋に入ってくる。 「姫様、御用でしょうか」 「…朝霧、直ぐに支度をして父の手の者に見つからないよう、此処を出立するのです。これを持って…そして平安京の桜館に届けてください」 亜子が生まれた時から知っている朝霧は、普段と違う亜子の様子にすぐに気付いた。 「姫様…もしや…」 「ええ、前から見ていた予知夢が…」 「分かりました。この命に代えて届けます」 「朝霧、頼みます」 亜子は朝霧の手を、ギュッと握ると目を見つめた。 「…姫様も…」 朝霧も亜子を見つめ返すと、そっと手を離し静かに部屋を出て行った。 これが今生の別れだと、お互いに知りながらもあっさりとした退出だった。 亜子の表情が切羽詰まっているのを見た朝霧の決断だった。 我が子のように愛おしく育ててきた亜子を、あの一族の中に置いてくるのは身を切られる辛さだったが、前々からの亜子との約束だった。 御告げを受け、その時が来たら都に、平安京の桜館に知らせに行く事を、朝霧は亜子から頼まれていた。 平安京へ通じる道は、夜には魑魅魍魎が彷徨う。 お告げが夜明け直後なのが、まだあの者達に対抗出来る兆しだと亜子は感じた。 亜子は、懐から人形(ヒトガタ)の紙を出すとふぅっと息を吹きかける。 「朝霧を守りなさい」 そう命じると、亜子は人形を飛ばした。 そして亜子に出来る最後の務めの準備を始めた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加