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周囲の監視を避け館を抜け出した朝霧は、平安京の桜館へ出来る限り早足で進んだ。
その周りを亜子の式が警護をする。
街道を行けば見つかる可能性が高いので朝霧は街道を避け歩んだ。
亜子姫の命が尽きる前に、何としても桜館に文を届ける為に朝霧は足を動かした。
一方、亜子は一対の貝合わせの貝を取り出し庭の桜の花弁に手を伸ばした。
季節外れの真冬に咲いた御神木の桜の花を、そっと撫でる。
「…最後に一目お逢いしたかった」
姫巫女として、連れて来られた亜子だが、そんな亜子にも想う相手が居た。
その人と添い遂げる事は叶わないが、相手も亜子を愛おしく思ってくれていた。
「…亜子は最後まで運命に抗いとうございます。貴方様と、もう一度お会いする為に。たとえ贄となる運命だとしても…」
数枚の花弁を取り念を込めると、貝の中に入れ二枚の貝を合わせ封じると、懐の奥にそっと忍ばせ、また桜を眺める。
「わたくしは…」
亜子は、先の言葉をぐっと飲み込むと下唇を噛んだ。
そのまま、部屋の中程に進むと最後の仕上げに準備をしていた紙を広げる。
陣が書かれた紙に念を込め時間稼ぎの結界を張ると亜子は静かに座り時を待った。
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