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月日は流れ、季節は春を迎えていた。
ここ数年、桜の花が咲くと平安京では、ある噂が人々の話題になっていた。
満開の桜の頃に突如として墨染に変わる木が現れる。
そして、その木に触れると外傷も無いのに死亡する。
噂は市井の者だけではなく貴族の間にも囁かれていた。
そんな噂に、今年も検非違使庁(けびいしちょう)には苦情の申し立てが引っ切り無しに来ていた。
検非違使庁とは、平安京の治安を守る役所で治安維持を主とする。
「だから、その件はこちらでは無く陰陽寮へお願いします」
検非違使庁の入口に響き渡るその声は、少し苛々していた。
物の怪などの霊障は陰陽寮の管轄だが、一般人にはそれが霊障かどうかの違いなど分からない。
人の様な者が襲うのを見たと検非違使庁に通報してくる者もいる。
それ故、今回は検非違使庁と陰陽寮の合同調査となった。
その合同調査の一人、陰陽師の土御門翡翠(つちみかど ひすい)は浮かない顔をして検非違使庁の入口から出てきた。
「式も飛ばして警戒してる中、また被害者が出たか…」
物の怪や霊障ならば式が反応する。
しかし、墨染め桜の怪には式は反応しない。
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