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たま子が二十歳になる年、こたろうはファミリーへの入所を決めた。入所自体は皆の想像通りだったものの、その時期が早いことに驚かされた。ファミリーもこたろうを買っていて、勉強は入所後でもできるからと若年での入所を認めた。 内定が出たのが春先で、入所は六月の後半に決まった。たま子はお祝いに靴を作ってやるという名目を得て、週に一二度会いに行くことができた。 ある夕方、美しいカップルは寺子屋の庭で花壇の手入れをしていた。ジョウロからこぼれる水が夏草の生命力あふれる大きな葉に当たって砕け、二人のまわりに輝くような演出を醸していた。 たま子は声をかける前に見とれた。愛しのこたろうはもとより、緑の黒髪の前髪を編み込みにして後ろを下ろしたワンピース姿の吉乃もまた、実に愛らしかった。 先にこたろうが気づいた。手を上げ返して近づく。 「あ――おねえちゃん」 遅れて気づいた吉乃が満面に笑みを浮かべ、ジョウロを置いて駆け寄ってきた。宙に舞った飛沫が、風になびく髪から流れるシャボン玉に見える。たま子は飛び込んできた小柄な少女を抱きとめ、大きな胸にうずめた。 「むー――むー――ぷはっ」 谷間から脱出した少女の頭をなでる。     
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