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こたろうが十三になる年、たま子は十七になった。たま子は寺子屋に通いながら履物屋への奉公も始めていて、徐々に寺子屋へ出る日が少なくなった。 たま子がいつからこたろうを好きだったのか、本人にも思い出せない。こたろうが寺子屋に入った六つのときからずっと好きだった気もする。こたろうは年上の子と比べてもとりわけ賢くて利発で優しかった。女の子に見えるような美少年で、体は小さかった。 寺子屋でのたま子は、頼れる姐さん的存在だったけれど、成績は振るわなかった。ファミリー入りは無理だろうと周りも本人も早い段階から感じていて、叔母のつてでナカマチの履物屋に進路を決めた。 履物屋は性に合った。店の亭主がたま子を気に入って、最初から下駄やヒールの直し方を教わった。草履の編み方や革靴の作り方も習った。寺子屋へ行くより、それらの練習に時間を割いた方が自分のためになると思ったし、寺子屋で学びたいことももうなかった。それでも出席する日があったのは、ひとえにこたろうに会いたかったからだ。 その年、寺子屋に転入生があった。こたろうより一つ年下で、寺子屋中がざわめき立つほど、すばらしく可愛い子だった。吉乃という。 吉乃はいろいろな面でたま子と対照的だった。癖のないやわらかな髪を長く伸ばしていて、下ろしても編んでも結い上げても似合った。化粧をする必要はなかったが、色付きのリップをいつも塗っていた。誰に対しても笑顔で感じよく接した。季節に応じた華やかでかわいい服を毎日着ていて、特に膝下までのふんわりしたスカートを好んだ。趣味はお菓子を焼くことで、きれいにラッピングされた手製のクッキーやケーキをイベントごとに持ってきては配った。要するに、とても女の子らしい子だった。 全部でも二十人ほどしかいない寺子屋の全員が吉乃に憧れた。そして皆、こたろうと吉乃はお似合いだと思った。 声変わりをしたばかりのこたろうは、身長が一六〇センチもなかった。吉乃もまた小柄で、それより一〇センチほど小さい。たま子は今と同じで一七〇センチ近い長身だった。 誰もが認める美少年美少女は、周りが想像するとおりに恋人への階段を着実に上った。その歩みは遅く、清らかにきらめくような青春の日々を二年ほども続けた。
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