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結婚が、国のまつりごとという目的に使われるお立場は、悲しいことに、甘い恋愛とはほど遠く、夢や希望とはまったくの無縁なのだ。
うら若き乙女にとって、自由に恋もできないとは、なんともお気の毒な話である。ましてや淡い想いを胸に秘めたまま、たったひとりで他国へ嫁がねばならないなど、なんと切ないことだろう。
私はこの可憐な姫君に、そんな不幸な想いを味わってほしくはなかった。もしもできることなら、今のその純粋な心をお守りし、せめて美しい思い出だけでも作ってさしあげたい、そう私は思った。
たとえそれが、ご結婚までのわずかの時間であったとしても。
憚りながら私は、彼女の心に想う臣下とはだれなのか訊ねてみた。
せっかくお作りになったチョコレートを渡すくらいはしてあげられるかもしれないと思ったのだ。
しかし、姫君は恥ずかしがってなかなか教えて下さらない。まあ、そういうことは言いにくいものであろうから、仕方あるまい。
そこで私は、質問の仕方を変えることにした。
配下の中に、独身でそれなりに若く、姫君のお相手になりそうな可能性のあるものを思い描いてみる。すると、すぐに数名の顔が思い浮かんだ。
彼らの名前を口にして、姫の答えをうかがったが、私の予想に反して彼女の反応は薄かった。
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