奇食連鎖

2/13
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
好奇心。 それだけで行動する子供であり、少々、我慢と良識にも欠けていた。 酒、煙草に興味を持ち、父や祖父の物に手を伸ばしたのは小学生の頃。 中学に成れば、刹那の遊ぶ楽しさを得る為に親の財布から金をくすねた。 脱法ハーブを覚えたのは高校の頃。同じ悪さをする連中とつるんで手にした。 だが楽しい効き目なんて無い。 バッド・トリップして吐き戻すか、せいぜい訳の分からないサイケデリックな色彩が軟体動物の様にぶよぶよ蠢くのを見るだけ。 当然素行は悪化の一方で、親戚一同にも鼻つまみ者にされる事から両親は彼が二十歳になると当然の様に縁を切り、戸籍を別のものにした。 つまり彼は、血縁が居ながら家族の輪の中から弾き出され、天涯孤独の身となったのだ。 独り身の自由を謳歌するにも金は必要で、最初は知り合いに片端から無心していた彼も、だんだんと融通が利かなくなると共に日本での生活が難しくなって海外をうろつく事が多くなった。 片手には安いデジタルカメラ。 名目上はフリーのカメラマンを名乗り、気ままに旅先を選び各地をうろつく。 ただし、彼なりに目当てにしているものは有る。 大麻だ。 脱法ハーブで仲間の一人が死ぬ騒ぎを経験した彼は、危険な麻薬関係には手を出さなかった。 しかし大麻は麻薬と別だ。 日本では法律上でも別物として扱われる。 体質に合ったのか、多好感に包まれる感覚を最初から味わった彼は、次に大麻を吸った後は味覚が鋭くなり何でも美味しく食べられる事に感動した。 お陰でおおよその麻薬ではやせ細るのに、彼は日本にいた頃よりも体重を増やした。 質素で素朴な味付けの料理しか出ない地域を主にうろついていたのにだ。 そして彼は大麻の多好感と何を食っても美味しく感じる恩恵に因って一つの仕事を手にした。 きっかけは些細なもの。 未開な土地を主に渡り歩き、大抵の人ならば目を背けるであろう物を被写体に選ぶ彼は、それらにも一定の需要が有るからこそ食い繋いでいるとも言える。 久し振りの日本帰国の際に、高校時代からの知り合いである編集部の男に頼まれたのだ。 一つの雑誌の小さなコラム欄。それを担当していた者と連絡を取れなくなったからと。 困った顔で『人を食った話だよ、昆虫その他雑食記』と記された部分を指先で示しながら。 「意外と好評でさ、続けたいんだよ」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!