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「響一っ! いい加減に起きなさいっ」
飛び起きるって、まさしくこれだ。
柔らかい夢を切り裂いた鋭い声に思わず正座した俺の背中を、暖かい掛け布団がずるずる滑り落ちていく。
何事かと目を白黒させたのはほんの一瞬のことで、瞬きに合わせて手の甲に落ちる水滴にハッとなった。
なんだ俺、あの甘くて幸せな夢に泣いちゃったのか。
夢の中じゃ大丈夫だったのに、ホント、現実じゃダメだなぁ。
ため息とともに夢の余韻に浸る俺をよそに、階段を上がる母さんの声はますます鋭さを増していく。
「転校初日から遅刻なんて言語道断! 学校まで時間かかるんでしょう、早く起きなさいっ」
「もー、起きた! 起きたから!」
このままじゃ扉を蹴破られそうな勢いを感じて、慌てて声を張り上げる。ぴたりと足音を止めた母さんは、鼻息荒く朝食が出来ていると告げると、憤りを感じる足音のまま階段を下りていった。
ホッと息を吐いた途端、止まったと思った涙がぽろぽろ溢れだす。びっくりしながらも手の甲で拭えば、ますます流れ出したから結局手を止めた。
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