鏡よ、鏡

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 視線が絡み合うと、麗香から余裕の無さを感じ取った白雪は一瞬だけニヤリと口角を上げたが、それも一瞬のこと。  すぐにわざとらしい営業スマイルを貼り付けて、部屋の主の許可も得ずに中へと入って来た。 「麗香さん、相変わらず綺麗ですよね~。もう三十前とはとても思えませんよぉ~。私なんか、まだ二十歳そこそこでしょう? それでもなんだか、肌荒れとか老化とか気にしちゃうんですけど。麗香さんって、何にもしていないんですよねぇ~? 尊敬しちゃ~う!」 “何にもしていないんですよね”という言葉の深い意味は、“美容整形していないんですよね”という意味を指している事くらい、どんなに鈍感な人間であっても業界人であれば誰でも分かる。  芸能界では、プチ整形と言われるヒアルロン酸やボトックス注射。  リフトアップの為に糸を入れたりするなんて、スタバでコーヒーを飲むかのように、誰もが皆、簡単にやっている。  しかし麗香は、持って生まれた美貌と、両親から受け継いだ美肌によって、今まで、そういった物には、全く興味を持たなかったし、やる必要性も見いだせなかった。  ただ、この白雪の厭味で挑発的な言い方に、少々カチンときたものの、相手は自分よりも格下であり、後輩なんだと言い聞かせて、落ち着いた声で答えた。 「えぇ。何もしていませんよ。肌に関しては本当に親に感謝しなくちゃって、いつも思っているわ。でも、それは白雪さんもでしょう?」  大人の余裕を見せると、何故か彼女は、口元を歪ませ、拳を白くなるまで握りしめていた。
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