31人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうかした?」
“何か気に喰わない事でも言ったかしら?”と思い、声を掛けると、彼女は「ハッ」と我に返った。
不機嫌そうな。
それでいて思い詰めたような顔を見せていた白雪だったが、一瞬で気持ちを切り替え、嘘っぽい笑顔を貼り付けながら、麗香の耳元に口を近づけた。
「でも……。やっぱり、化粧品やエステだけじゃ、小皺やお顔の弛み。限界がありますよ?」
小馬鹿にするように、息を吹きかけながら小さく囁くと、鋭い眼差しを麗香に向けた。
「この業界で、同じようなタイプの女優……いりませんから」
相手が大先輩であるにも関わらず、無礼な態度で冷たく言い捨てると、さっさと楽屋から出て行った。
後に残された麗香の頭の中に木霊するのは、最後に白雪が言い放った言葉。
確かに、似たような系統の人間なんて、この業界に何人もいらない。
しかし、デビュー当時から、【第二の美輪 麗香】と謳われる白雪は、そのイメージを壊さぬよう、雰囲気も演技も、自分そっくりに真似している。
もし二人のうち、どちらかをヒロインに選ぶとしたら、若く、美しい方がいいに決まっている。
それじゃぁ、自分に出来る事は?
あの女よりも美しくなるには?
誰もが認める、昔の自分の美しさに戻るには?
自分の女優人生を思えば思う程、彼女の存在を脅威に感じ、焦ってしまう。
冷静な判断が出来ないまま、自分が業界に期待されているのは一体何だろうと、自分自身に問えば、導き出される答えは一つ。
最初のコメントを投稿しよう!