鏡よ、鏡

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 特に、彼女のようにその美貌により、大きな栄誉や人気を得て、銀幕のスターとして輝いていた人間にとって、その地位から陥落するという事は、この業界からの生命線を断たれるという恐怖心を持ってしまうのも仕方のない事。  本来ならば、ここが女優としての転機であり、進むべき方向性を変えるべき時期でもあるのだが、彼女はその“方向性”を誤ってしまった。  自分に対する評価を自分自身で『容姿』に括ってしまったのだから。  それが、ライバルである白雪の思惑でもあったのだけれど……  それからの麗香は、シミが気になればシミ取りレーザーを。  目の大きさが気に入らなければ、目頭切開を。  顎のラインが気に入らなければ、顎の骨を削り。  鼻の形、額の皺、そして、顔の工事が終われば、次は体へ。  一度始めてしまったら歯止めがきかなくなってしまう、麻薬のように中毒性のある整形。  人は、誰しもが美しいものを好み、醜いものを拒む。  人は、誰しもが美しいものを愛でるが、それ以上に美しいものが現れれば、そちらに意識は移り変わる。  子供が古い玩具を捨て、新しい玩具に夢中になるかのように。  麗香は、極端に自分の衰えと劣化に脅えるようになり、整形を繰り返し、そして、その後の自分の姿を見る度に安堵を覚えるのであった。
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