鏡よ、鏡

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 しかも、彼女が整形に成功する度に、事務所の社長は「まるで生身のヴィーナスだな」と褒めちぎり、マネージャーも、もっともっと美しくなるようにと整形を勧めた。  誰も止めるどころか、むしろ好意的で。  彼女の美への探求と行動は、留まる事が無かった。  当然のことながら、そんな彼女の変化に気付かない人間はいない。  今までは正統派美人女優の看板を背負っていた彼女であるが、いつの間にやら、『整形サイボーグ人間』の異名を持つようになっていた。  元々、誰もが羨む容姿を持っていたというのに、人間らしさの欠片もない、まるでマネキン人形のような……ある種、『完璧な』容姿へと変貌を遂げた麗香は、世間から好奇の目で見られているにも関わらず、その視線を『自分の美しさに、皆が振り向かずにはいられない』のだと勘違いしていた。  誰がどう見ても『整形』と分かる程行き過ぎた手術。  最初は揶揄や嘲笑が止まらなかったのだが、それで彼女が傷つくどころか、むしろ自分に自信を持ち、悪い意味での注目を受けているのにも関わらず、どんどん得意気になっていくことで、事態は更に変化する。  元の顔が分からないほど『自分の理想』で仕上げられた『器』を、これが進化した美輪麗香であり、最高の自分だと言い切り、自分は『正統派な女優』だと思い込んでいる天然なのか、単なる馬鹿なのか分からない『特異』さから、大ブレイクを果たしたのだ。  お陰で、テレビのバラエティ番組やトーク番組で引っ張りだこ。  彼女の姿をテレビで見ない日は一日たりとて無い程の勢いであった。  勿論。  彼女は、その全てが【整形サイボーグ人間】としてではなく、【美輪 麗香】としての商品価値だと信じて疑っていた無かったのだが……
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