ビフォー・ダウン

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 2XXX年、東京__  小さな長方形が連なる木製の窓枠から、切り取られた空が見えた。どこまでも広がる青に、綿菓子みたいな雲がゆっくりと流れていく。窓枠越しで見る空は、雲の動きを追う映画のフィルムようだ。  潮の香りがした。生暖かい風が流れ込み、鼻腔をくすぐる。カモメの群れが、短く鳴き声をあげ、苔色に濁った川の水面付近を飛んでいった。  春だな。じっとしていても汗ばむ陽気に、ユウタは思った。ここに来て約二年、季節の移り変わりには敏感になった。  ユウタは仰向けに寝転がり、空を見上げていた。ここはお気に入りの場所で、元は座敷の付いた船だった。河川を遊覧しながら、人々が食事を楽しむための屋台船。本来の目的を失った船は、今は朽ちた残骸だ。川岸には所有者を失った船が、あちらこちらに漂っていた。  破れた障子がこびり付いた木製の窓枠は風化して灰色にくすんでいたし、枕代わりに頭の下に挟んでいる座布団も、生地の切れ間から綿が飛び出し、埃臭い。畳も所々腐っていて、たまに床が抜けることがあり、そこら中、穴ぼこだらけだった。いつ沈んでもおかしくないこの船は、今日もかろうじて、ゆらゆらと水面に揺れていた。
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