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「花見をするぞ」
モーゼは声高らかに、言い放った。「戦利品を手に入れた」と、右手に持ったビニール袋を掲げた。
「花見って?」
その場で胡坐を掻いたユウタは、着ていたジャージのズボンに右手を突っ込み、今度は股間の辺りを掻きむしる。そう言えば、最後に風呂に入ったのは何日前か? と、掻いた右手の指先の匂いを嗅いでみる。胃液がせり上げてくるほどの強烈な匂いに、思わず咳き込んだ。そろそろ体を洗った方が良さそうだ。
「書いて字のごとく、花を見ながら宴会をするんだ。河川敷の桜並木が綺麗だぞ。こんな日は、酒を飲んで飯を食って、陽気に歌う。日本のフウブツシよ」
モーゼは威張ったようにフンと鼻を鳴らした。鼻歌を口ずさみながら、彼は一足先に船着き場に降り立った。ユウタはモーゼの後を追って、船を出た。船の窓枠と同様、川上にせり出た船着き場は、本来の木の色が解らなく位に風化し、所々が藻に覆われている。水が浸かる部分の柱には、小さな藤壺をびっちりと纏っていた。緩やかに流れるこの川の先は、海へと繋がっている。この辺りは河口付近で、海水が混じっているので、藤壺が発生し、カモメが群れをなす。
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