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船着き場の階段を降りると、その先は檻だ。モーゼは黒いアイアンの扉を開き、檻の中へと歩を進める。ユウタは空を仰いだ。大きな川を挟んだ両岸には全く違う景色が広がっている。ユウタが立っている岸辺の反対側には、2000年代の初頭に開局した、当時日本一だとうたわれた電波塔をシンボルとして、高層ビルが建ち並んでいる。この土地はいつからか、川を隔てた両サイドに、富裕層と貧民層が住む地域になったという。
ユウタは貧民層のエリアで生活していた。両親は生まれた時からいない。彼は天涯孤独だった。貧民層のエリアは河川敷に配置されていた。河川にそって数100メートル置きに、両岸を結ぶ橋が架かっている。その橋と橋の間を目安に、巨大な檻が並んで築かれていた。居住できるスペースを無料で開放する代わりに、そこで生活する人々を檻の中に閉じ込めた。一日に一回、食事の配給はあるが、特に施設や個人の部屋が用意されている訳でもなく、その生活はホームレスのようなものだった。
誰がどういう目的でいつ檻を築いたのか、子供のユウタには解るはずもなかったが、ユウタよりもずっと長く、ここで暮らす住人達に訊ねることもなかった。それは禁忌のような気がして、訊けなかったのだ。
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