Frau des Mordes

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 私は小首を傾げながらヒロくんに近寄ろうとした。足を出そうとすると、また何かを蹴った。下を見たけど何もない。 「もう何なの!?」  癇癪を起こしてぷんすか怒りながら歩こうとすると、ヒロくんが悲鳴を上げた。 「やめろ! 顔踏むぞ!」 「だから、なんのことよ?」 「なんのことって……お前、見えないのかよ?」  信じられないものを見たようにヒロくんは目を丸めた。 「っていうか、お前なんでそんなかっこうしてんだよ? まさか、お前こいつの服……」  言葉を詰まらせて、ヒロくんは視線を下に移した。まるで本当に私の足元に何かあるみたい。私はイラついて険のある声を出した。 「ヒロくん。さっきから何なの? 何もないじゃない!」 「……ヒロくん? お前、そんな呼び方したことねぇじゃんか」  嫌悪感のある表情を浮かべてから、ヒロくんは、はっと気づいたような顔をした。私と私の足元を交互に見て、 「おい、柳井。裕子を殺したって、お前は裕子になれないんだぞ」 「何言ってるの? ヒロくん」  私はバカバカしくて思わず嘲笑してしまった。 「宮凪裕子は私でしょ」               了。
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