15人が本棚に入れています
本棚に追加
私は小首を傾げながらヒロくんに近寄ろうとした。足を出そうとすると、また何かを蹴った。下を見たけど何もない。
「もう何なの!?」
癇癪を起こしてぷんすか怒りながら歩こうとすると、ヒロくんが悲鳴を上げた。
「やめろ! 顔踏むぞ!」
「だから、なんのことよ?」
「なんのことって……お前、見えないのかよ?」
信じられないものを見たようにヒロくんは目を丸めた。
「っていうか、お前なんでそんなかっこうしてんだよ? まさか、お前こいつの服……」
言葉を詰まらせて、ヒロくんは視線を下に移した。まるで本当に私の足元に何かあるみたい。私はイラついて険のある声を出した。
「ヒロくん。さっきから何なの? 何もないじゃない!」
「……ヒロくん? お前、そんな呼び方したことねぇじゃんか」
嫌悪感のある表情を浮かべてから、ヒロくんは、はっと気づいたような顔をした。私と私の足元を交互に見て、
「おい、柳井。裕子を殺したって、お前は裕子になれないんだぞ」
「何言ってるの? ヒロくん」
私はバカバカしくて思わず嘲笑してしまった。
「宮凪裕子は私でしょ」
了。
最初のコメントを投稿しよう!