Frau des Mordes

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 涙で浮かんだようなぼんやりとした提灯の灯り。赤、黄色、白、青、様々な光りが、ぐるぐると回る。  頭の片隅で、澄んだ音色が小さく響いた。 ――チリン。 「いらっしゃいませ」  はっとして目を見開いた。心臓がどきどきしてる。目を瞬かせて、頭を振った。気持ちを落ち着かせて、改めて視線を前へ向ける。    目の前に広がっていたのは、十畳ほどの小さなバーだった。正面には、様々な種類のお酒が並ぶ棚がある。お酒はガラスケースなどに入ってなくて、剥き出しのままだ。そこから続くようにカウンター席の椅子が並ぶ。    カウンターテーブルは木製で、ニスが塗ってあるのか、滑らかに見える。触ると指が滑って行きそうで、気持ち良さそう。    照明のオレンジ色の光に反射して、テーブルがキラキラと光っている。まるで、海に反射してるみたいにゆらゆらと反射位置も変わった。    不思議に思って照明に目を向けると、アンティーク調のランプの中で煌々と燃えているのは、ロウソクだった。  この御時世にロウソクなんだ。  私は密かに驚きながら、ぐるりと全体を見回そうとして気づいた。壁は本物のレンガだ。なんだか外国にきたみたい……。そのまま見回していくと、カウンター席の中の男性と目が合った。  カウンターの中で、彼は着席を促すように笑っていた。そのすぐ後ろには、ガラスケースに入った高級そうなお酒が並んでいる。    私はおずおずとカウンター席へ行くと、椅子へ座った。  丸い回転式の椅子は、座るとふんわりと沈んで心地が良い。 「あの、ここはどこなんですか?」
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