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ふと、バーテンダーの向こう、ガラスケースの中に女が映っていることに気が付いた。怪訝な表情で私をじっと見つめている。
そこではっとした。その女は私だ。
ガラスケースに映った私は二十代半ばか後半くらいの、痩せ型の女だった。胸元が大胆に開いた白いセーターを着ている。少しだぼついていて、サイズが合ってないからか胸元が惨めに見えた。
口紅は真っ赤で、マスカラは二度付け。髪は縛ってあったのか、変なところで癖がついていた。
化粧は濃いけど、案外地味ね。
残念な気持ちを胸に、私はバーテンダーに視線を移した。
「貴方、名前は?」
「ホーセントグリムと申します。グリムとお呼び下さい」
「外国人?」
グリムは首を横に振って、すっとカクテルを差し出した。――いつの間に作ってたの?
「私、多分お金持ってないと思うんですけど……」
「代金は要りません」
「え、本当に?」
胡乱に尋ねた私に向って、グリムは爽やかに笑んだ。
「はい」
何か企んでるの? 不信感が首をもたげたけど、私はそれを全力で否定した。何故か、そうしなければならない気がした。
私は改めて思いなおす。――この男、私に興味があったりして。口説きたいとか、そんな感じかしら――グラスのステムを持って、まじまじとカクテルを見つめた。
透き通るような琥珀色。ちらりとグリムを見る。彼の瞳と同じ色だわ。自分の目の色と同じお酒を出すなんて、やっぱり私に気があるんじゃないかしら?
弾む気持ちでカクテルに口をつけようとすると、彼がそれを遮った。
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