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グリムの冷静な声音が、私を思考から呼び覚ました。はっと顔を上げると、グリムは優しげな笑みを浮かべている。
「だって、そんなの……姿形が判れば自分かどうかなんてはっきりするじゃないですか」
一人の女は、地味だった。顔を見るからにもない地味なかっこう。
ダークグレーのスーツに、薄い水色のシャツ。ふちなしの眼鏡だけが、塗りつぶされた黒い顔に浮かんでいる。髪はストレートの黒髪を一本に束ねている。体つきは細見で、少し猫背気味だった。
私は多分、彼女が嫌い。
彼女が浮かんできたときに、嫌悪感しかなかったもの。
一方で、もう一人の女には、何故だかすごく好感が持てた。
派手な服装で、女の色気満載の、そう。今の私みたいな。
私はガラスケースを真っ直ぐに見つめた。
様々なお酒のビンに混じって、私の姿が映る。
記憶の中の女は、まさしく同じようなかっこうをしていた。
これよりも少し派手ではあったけど、胸の谷間を強調した、身体にフィットした白いセーターからは、大きくて柔らかそうな胸とくびれた細い腰が。ぴったりと密着した短いデニムのスカートからは、豊満なお尻が窺えた。すらりと伸びた足は、カモシカみたい。
まさしく、女の憧れみたいな体に、ふわふわのウェーブがかかった茶色の長い髪。そして、塗りつぶされた黒い顔に浮かんでいた、印象的な赤い唇。
ふと、ガラスケースを見ると、ぼんやりと視界が白く霞んでいた。――どうしたんだろう? 急いで目を瞬かせると、ぼんやりとした白いシルエットが更に膨らんでいって、次の瞬間には、豊満な胸に細いくびれの茶髪の女を映し出していた。
猫の目のようにくるりと丸い瞳。薄茶色の長いまつげ。印象的なふっくらとした、赤い唇。
私は確信した。
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