1/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

 私には兄がいた。  【いた】と、過去形になってしまっているのが、私の兄への想いが諦めになってしまっていると言う事であろう。  5つ上の兄は、とても穏やかで優しい人で、山をこよなく愛していた。  成績も優秀で、両親にとっても自慢の息子であり、出来の悪い私にとっては、ともすればコンプレックスの源になるような存在だったが、それでも私にもとても優しく…素直に尊敬すべき存在であり、大好きな兄であった。  その兄が、4年前に行方不明になった。  大学のワンダーフォーゲル部で行った登山の最中、雪崩に巻き込まれたのだ。  警察や地元の救助隊の方々の必死の捜索もむなしく、今でも兄の遺体は見つかっていない。  だからこそ、両親は未だに兄の生還を期待して、兄の部屋も生前のままにしてあるのだろうが…  私は正直諦めている。  両親に比べ、冷たい人間なのかも知れない。  ただ常識的に考えて、冬場の雪山にたった1人食料も無く放り出されて、生きていると考える方が無理があろう。  両親も解ってはいるのだろう。  ただ認めたくないだけで…
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!