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兄
私には兄がいた。
【いた】と、過去形になってしまっているのが、私の兄への想いが諦めになってしまっていると言う事であろう。
5つ上の兄は、とても穏やかで優しい人で、山をこよなく愛していた。
成績も優秀で、両親にとっても自慢の息子であり、出来の悪い私にとっては、ともすればコンプレックスの源になるような存在だったが、それでも私にもとても優しく…素直に尊敬すべき存在であり、大好きな兄であった。
その兄が、4年前に行方不明になった。
大学のワンダーフォーゲル部で行った登山の最中、雪崩に巻き込まれたのだ。
警察や地元の救助隊の方々の必死の捜索もむなしく、今でも兄の遺体は見つかっていない。
だからこそ、両親は未だに兄の生還を期待して、兄の部屋も生前のままにしてあるのだろうが…
私は正直諦めている。
両親に比べ、冷たい人間なのかも知れない。
ただ常識的に考えて、冬場の雪山にたった1人食料も無く放り出されて、生きていると考える方が無理があろう。
両親も解ってはいるのだろう。
ただ認めたくないだけで…
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