核汚染は解決しようとしていた

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核汚染は解決しようとしていた

核汚染は解決しようとしていた。 東北大学の鮫島准教授の研究グループが汚染物質の吸収材をつくりだしたのである。 それをささえる航空技術もめざましい展開をとげていた。 飛行機に乗ったときに墜落する確率は0.0009%といわれていた時代。それをいまや0.0007%にレベルをあげた航空運搬技術。それを遠隔誘導し無人で太陽におくりこむのである。 よにいう太陽回帰計画(エアポロン)である。 まさに核汚染は解決しようとしていたのである。 「バカいっちゃぁいけない。そんなことできっこないじゃないか。」 東北大学の重森教授は農学部を11年まえ退官した。 「バランスというものがある。それをたしかめもしないで。」 酔うと元教授はくちすっぱくいう。まわりにとっては、こまったお年寄りのひとりでしかない。 計画はしゅくしゅくとすすんでいった。 機体はEUがにない、発射はフランス領ギアナであった。 順調とはつまりこのことをいう。 それほどに計画は慎重にかつ大胆に遂行する。 人類の矜持。 作業場は自信と余裕でみちていた。 「道雄、かんがえてもごらん、おてんとうさまだって、おおきいからと過信してはいけないんだ。おおきいやつはたいがいどこかに欠陥をかかえているものだ。ま、ちいさくても欠陥をかかえているものもおおいけれど。つまりわれわれだよ、道雄。」 重森は孫をあやす。 わらいながらこたえてくれるのは道雄しかいない。 WEBではどこもかしこも発射の実況であった。 さまざまなツアーがくまれていた。 大気圏外まで同行するツアーがいちばん高価であった。 発射はなんなく完了し、かかわった国々の首脳たちをはじめとする技術者、メディアはこぞって科学技術の勝利をたからかにうたった。 「まだなにもはじまっていねぇ。」 重森がいうと、道雄はなきだした。 「おまえさんをなきやませることのほうがむつかしいってのによぉ。」
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