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「おい、唯野、あれまじか?」
「ちょっと唯野さん、今、動かれたら困るんだけど」
最初は返していたが、もうそれどころではない。
たったったったったったったっ…真紀の後ろから軽快な足音が近づいてきた。
「おはよ。久しぶり」
近づいてきた足音は、真紀に並ぶと声をかけてきた。
「結城晴彦!」
「名前呼ばれたの1年ぶりだ。嬉しいな」
さっぱり系クールなメガネ男子。ちょうど出社したばかりなのだろう。ブリーフケースにコート姿で並ぶ。
「話しかけないでよ!」
「ハァ?このままだと俺、お前の上司だぞっ」
会話というにはどうも喧嘩腰である。
カッカッカッ…カカカカカカカカ!
真紀は晴彦に返事をせず、ついに廊下を走り出した。
「…おまっ…無視か!」
晴彦も同じく走り出した。
コイツの行き先は聞かなくてもわかっている。廊下の突き当たり。人事部だ。先を争うように廊下を走り、ノックもなしに勢いよくドアを開けた。
「失礼します!イベントの唯野です。田中部長いますかっ」
駆け込んできた真紀と晴彦に人事部の空気が停止した。はぁはぁと二人の息だけが聞こえる。
「や!来ると思ってたぞ」
部長席前の応接セットに深々と腰掛け、コーヒーをすするおじさん二人。人事部長の田中と、宣伝広告部長の斎藤だ。
「お二人が揃っているとは都合がいい」
「人事のコーヒーはうまいんだよ、な、田中」
「実にお前がいう通りだ。斎藤」
晴彦が真紀の手からぐしゃぐしゃの辞令を奪い取って、呑気にコーヒーを飲んでいる二人の鼻先に突きつけた。
「どういう事ですか?これ?」
辞令
イベント事業部 主任 唯野真紀を4月1日付で宣伝広告部 宣伝広告課への異動を命じる。
「俺、こんな話、聞いてませんけど」
「そりゃなぁ、社長直々のお達しだもん。なぁ、田中」
「社長の事だ。深い考えあっての事だろう。仕方ないよな、斎藤」
もん言うな、もん!
「とにかく!内示もないまま、新年度まであと1週間とか!ありえませんから!」
真紀も必死で抗議する。人事部長の田中がチラと真紀を見た。
「そんなこと言われてもなぁ。俺たちだって今日知ったんだもんな、斎藤宣伝広告部長」
「そうだとも。田中人事部長。
真紀ちゃん、宣伝広告としては今日からでもいいよー優秀なのは大歓迎」
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