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その時突然扉が開いたかと思うと教師が顔を出した。あれ、来ないと思っていたのだが。
「お、いたのか。ちょうどいい。お前も手伝え。すぐ終わるから。」
どうやら呼ばれているらしい。
「何を?」
「掃除だ。この部の枯れた植物を処分するんだがお前も手伝え。一階に持っていくだけだから。」
この美術室には多くのプランターがあり、そこに植物が植わっているのだがほとんどが枯れている。
思わず出てしまった盛大な溜息とともにわかりましたと適当に答えたがやる気はあまりない。
けれど私が仮にも美術部員であることは確かなので仕方がない。
私は部屋にたくさんあるプランターの一つを持つと寒い室外へ運んで行く。
そういえば私が入部したときはこの教室は花にあふれていたものだ。
私がまだ比較的純粋で素直な新入生だった頃、私は家庭科室に行くつもりが間違えて美術室に来てしまった。
だから部屋の名前もよく見ずに適当に扉を開けた私は部屋を見て驚いた。美術室は大小色とりどりの花に満ちていたのだ。
そのお花畑の真ん中で一人お姫様が絵を描いていた。
それが先輩だった。
確かに先輩は美人の部類に入るとはいえクラスに一人か二人はいてもおかしくないような美人だったので過剰表現かもしれない。
しかし確かにその瞬間の先輩は部屋のどの花にも劣らない、可憐な人であったのだ。
扉の音で私に気が付いた先輩は入部希望者と勘違いしたようでどこからかお茶を出して迎えてくれた。
私は部活に入るつもりはなかったけれど先輩と部室の雰囲気、そして先輩の描く鮮やかな絵に惹かれ美術部に入部することにした。
実際先輩の画力は県展で争えるほどの実力であり、その絵は少し絵が得意な程度の私の絵とは雲泥の差であったが先輩は決して奢ることなく優しく丁寧に絵画を教えてくれた。
そのおかげで私の絵は中学の頃とはくらべものにならないほど上手くなり、何より絵が好きになった。
その頃は思うと不思議なくらい真面目に部活をやっていた。
とはいっても落書き同然の絵を描き合いっこしたり黒板アートをしたりと遊びじみたことも多かったが。
ともかく今思い出してもそれは楽しい時だった。
「あら、久しぶり。」
少し思い出に浸っているとドアが開き、先輩が立っていた。
先輩は大学受験をするそうだから一月など勉強で忙しいはずなのに。
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