ベイビーズドントクライ

2/28
前へ
/28ページ
次へ
 僕は頷く。僕のもとを訪れるベイビーたちの誰もが話題に上げる連続殺人はこれまで二名が犠牲となっている。最近は、この街を取り巻く不穏な空気に怯えるベイビーたちを慰めることしきりだった僕だけど、さすがに友人を名乗る者が来るのはこれが初めてだった。 「幻妻皇さまに憧れていて、髪型を真似するほどだったの。実際にお話しする機会があるって私によく自慢してた。あの子の喜びように私まで嬉しくなったんだよ」  珠玖瑠々(しゅくるる)幻妻皇はこの国を統治している。この国に住まう全女性のあるべき姿を体現した女性であり、六児の母でもある特級愛育士だった。  ベイビーが僕の左前脚を握った。声は湿り気を帯びる。 「それなのに、どうしてこんなことになったんだろう」  ソファのうえで身を折って嗚咽を漏らす。アップにした髪には輝きがなく、うなじはほつれている。  僕はまるめた背に身を寄せると右前脚で頭を撫でた。  ひとしきり撫でてから、突然手をとめる。 「おっと、」  ベイビーは僕の声に意外そうな顔をして視線を寄こす。どうかしたのかと目で問う。 「未来の特級愛育士さまに失礼だったかな?」  右前脚にとがめるような視線を向けるふりをするとベイビーは小さく笑った。 「そんな、私はぜんぜん。愛育士になれるかも怪しいの……あんなにたくさん覚えられないし……」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加