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「内緒の話、あんなもの、覚えなくても大丈夫だよ」
「先生ったら、そんなこと言っていいの?」
ともにイタズラをしかけようとしているみたいにベイビーは笑う。僕の職業に気を遣っての発言だった。大きな分けかたをすれば僕は愛育士試験を実施している側に所属している。
「きみは口が固そうだからね。愛育法大全の内容を思い返してごらんよ。昔はあんなものなくても、みんな子育てをしていたんだ。亡き友のためにこんなにきれいな涙を流せるきみが、愛育士になれないのなら、愛育法大全なんかヤギに食わせてその腹をくだすような粗悪なシロモノなのさ。大丈夫、きみは愛育士になれるし元気な子を産める。きみの人生はまだまだ続く、前に進むために悲しみも嘆きも僕に預けていってほしいんだ」
瞳が潤んだ。薄く照らされた室内で僕の姿がひときわ映りこむ。
それは白いペルシャネコのぬいぐるみの姿だ。
僕の毛並みを逆立てるように白く瑞々しい手が滑っていく。
ぐるる、と実物のネコがのどを鳴らすように低周波音を発する。ネコは本来、孤独な生き物であり、この音はケガの際の自身の治癒のために発することもある。周りのものを癒す効果まであるらしい。
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