ベイビーズドントクライ

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 魔法が発動して、百人あまりの男性がぬいぐるみになった。  世界が子供の空想めいた事象に侵食された。  地上のある地域では地面がフェルト地に変わったり、建物がお菓子に変わったりした。  その範囲は円形に広がり、この星に水玉模様を描いた。各地の円の大きさはばらばらで、歪で、落書きめいていた。直径二千キロメートルを超える最大の円に隣接するのがこの地域だった。  大混乱のさなか世の男性たちは次々とぬいぐるみになっていき、それは止められなかった。加速度的に進行し、十年を待たずにすべての男性はぬいぐるみになってしまう。  現在は元が人間だったぬいぐるみはひとりもいない。寿命や外的要因で死んでしまったんだ。男性たちぬいぐるみはフェルトの大地の上、綿がつまった作り物の木々が自然に生えている、円の内側で暮らしている。そこで見上げた空はクレヨンで塗りたくった青であり、太陽はぐるぐる巻きだった。しかも、自身の欠損した部分は自然に治癒するらしい。僕もそこにいれば首もとも元どおりになるというわけだ。  僕だってそこで産まれた。畑があるんだ。ひとりでに成長し繭が割れて産まれてくる。畑の中央、一段高い場所の繭から産まれた男性は王様となり、円の内側を統治している――しかし、しょせんはごっこ遊びのようなものだ。
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