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ベイビーズドントクライ
最近、仕事が忙しい。
いいことじゃないかって? ふつうの職業なら暇なよりはいいかもだけれど、僕の場合はちょっと違う。ベイビーたちは癒しを求めて僕のもとにやってくる。この仕事が忙しいということは世の中でベイビーたちが傷ついていることの証明になってしまうんだ。
今日のベイビーは強い子だった。
「友だちが殺されたの」
十二畳ほどの部屋は間接照明が薄く照らしている。入り口正面には水色の遮光カーテンがかかっている。左手の一面には大きなモニターがあって、傍らにはスピーカーが備えてある。映画もスポーツも大迫力で楽しめるんだ。反対の壁際には二人がけのソファがあって、僕とベイビーはいつもここに座る。
いまもそうしていた。ベイビーは僕の左前脚の先端にある肉球パーツをしきりに触りながら、友人の死を口にする。毅然たる口調で、その瞳に潤みもなく、ただ肉球パーツをもてあそぶ親指だけが彼女の傷の深さを表している。
僕は驚いたふりをして続きを促す。
「もうすぐ二十歳になるところだったの。私と一緒に愛育士の試験を受けようとしていたのに。私よりよっぽどしっかりした考えを持った子だったの。私が愛育法それ自体しか学んでいないのに対して、あの子は自分なりの哲学みたいなものを持っていたわ。三級も厳しい私と違って、あの子は一級以上になれそうだったのに」
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