1

1/5
106人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

1

──暗くて、無愛想。  茅葺(かやぶき)にとってそれが彼の第一印象だった──。  茅葺は書店のバックヤード内を店長に案内され、最後にひとりの男性店員を紹介された。 「泉(いずみ)くん、こちら新しくバイトで入った茅葺くん。茅葺くん、彼が教育係に入る泉くんね」 「茅葺です。よろしくお願いします」 「泉です。よろしく……」  なんとも覇気と愛想の無い返事だなと、茅葺にとって、泉の第一印象はあまり良いものではなかった。  泉という男は黒くて太いフレームの眼鏡を掛け、髪は肩につく程長く、邪魔な髪をハーフアップ程度に結んでいるものの、前髪はほぼ眼にかかっており、販売員とは思えない出で立ちだった。だらしないのかと思いきや、制服の白いポロシャツはきっちり第一ボタンまで閉められていた。  店内を案内される間もチラチラと茅葺は泉を見ていた。横に並んだ時にふと、眼鏡に当たる程の長い睫毛を見つけた。右眼の下には涙ボクロが二つ星のように並んでいて、近くで見ると、どこか怪しい色気のある男だった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!