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店長に頼んで泉は茅葺を休憩室へ連れて行き、落ち着かせる為に一度座らせた。
机に両肘をついて頭を抱える茅葺は怒りが収まらないのか、足をガタガタと揺すっている。
「なんで黙って許すんですか! アンタを物扱いする奴のことなんか!」
苛立った口調で早口に話す茅葺とは正反対に、穏やかな声で泉は返す。
「茅葺くんこそ……なんで? そんなに怒るの?」
「こんなの常識的におかしいでしょう!」
茅葺が泉に視線をやると、その顔は何の苛立ちも怒りもなく、ただ柔らかで、どこか微笑んでいるようにも見えた。
「希とは──、本当に幼馴染みなんだ」
余りにも静かなその声に、茅葺の身体に入っていた過剰な力は抜け、足の揺れが止まる。
「4歳の時から隣同士の家で育った。それから今までずっと一緒なんだ」
「ずっと、って……?」
「言葉通りだよ、俺たちは17年間一緒にいる」
「じゅう……なな年も……?」
茅葺がひどく驚いていることはその見開かれた双眸から読み取れた。
「それに──希の言った通りだから」
「所有者って?! 泉さんはそれで幸せなんですか……」
「しあわ……せ?」
泉の顔から一切の表情が消えた。
そして、どこか遠くを眺めるような、視点の合わないぼんやりとした瞳のまま、ポソリと呟く。
「幸せって……、感じ取れるものなのかな……?」
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